ディアスポラ
![]() | ディアスポラ 著者:グレッグ・イーガン 出版社:早川書房 |
ほとんど独力で現代SFの最先端を支えている人物であり、
1990年以降に書かれた重要なSFを全世界から十冊ピックアップしたら、そのうちの半分はイーガンの著作になるんじゃないかというほどです。つまりイーガンの著作を読んでいれば現代SFはほとんどフォローできているわけで、ある意味ではお得な作家さんですね。
イーガンの初期作品は、SFとは言っても基本的には人間の心の動きが主体になっていて、とても読みやすいのですが、この「ディアスポラ」はかなりぶっ飛んでいます。なんと言っても、舞台が30世紀。23世紀じゃないですよ。30世紀です。30世紀を舞台にするというだけで、並のSF作家では尻込みしてしまいますよね。僕も正直、30世紀の人間がどうなっているか、全く見当が付かないですから。
「30世紀の人間がどうなっているか」というイーガンの空想を味わうだけでも、この小説を読む意味があるのではないでしょうか。
ちなみに少しだけ紹介すると、ディアスポラでは、(少なくとも小説の最初は)人類はまだ地球外生命体とも出会っていなくて、地球に住んでいます。…案外普通ですね。でも、その存在の仕方が今日とは全く違っています。30世紀の人類は、肉体的には存在していなくて、コンピュータのソフトウェアとして存在しているのです。地球の各所に「ポリス」と呼ばれる巨大なコンピュータがあり、その中でたくさんの人間が生活している。各ポリスは運営方針が違っていて、あまり交流がない…という設定です。
コンピュータの処理速度は28世紀に限界に達しましたが、それでもポリスの中の人間は、僕たちとは比べものにならないスピードで思考します。人にもよるのですが、ポリス内の人間の一日は、実時間では1分40秒に当たります。一年でも10時間くらい。しかもポリスの住人達に肉体的な活動限界はありません。
確かに生物の究極の目的が永遠の命であることを考えたら、当然の帰結ですよね。ただ面白いのは、あくまで肉体での生活にこだわっている人たちや、自分を機械の体にインストールして暮らしている人たちもいるということです。
こういう多彩な設定が、物語を複雑に、しかも面白くしています。
数学や物理に関する難解な設定が出てくるので、読みにくい小説ではあるのですが、あんまりそういうところは気にしないで、30世紀の人間達の生活や、主人公達と地球外生命体との出会いを楽しんだらいいんじゃないかなあ、と思いました。読み終わった後に、とても満足感を覚える小説だと思います。
この記事を書いてたときのBGMは、ニコニコ動画のスピッツ萌えだけで、ポップアルバム「Girls Pop」も作ってしまったでした。素晴らしすぎる出来です。
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