ユリイカ 増刊号 総特集=初音ミク
![]() | ユリイカ 増刊号 総特集=初音ミク 出版社:青土社 |
去年末に出た、ユリイカの初音ミク特集号を買ってみました。僕はニコニコ動画は好きでよく見ているのですが、VOCALOIDが特別好きなわけではない…と書こうとして本当にそうなのかと思い、ニコニコ動画のマイリスを見てみたところ、半分くらいがVOCALOID関連でした…。これはどう見てもVOCALOIDファンですね。
この本は、最初はちょっと立ち読みしてみようかなと思って手に取ったのですが、そのあまりのボリュームに(なにせ240ページのほとんどがびっちり二段組みの細かい字で埋まっているのです、)これは腰を入れて読まなければと思い、買ってしまいました。ネットでも「VOCALOID論」というのはあまり読んだことがなかったですし、こんなに語ることがあったのかということ自体がびっくりです。
本の内容は、初音ミクを生み出したクリンプトンの担当者の方(佐々木氏)へのインタビュー、様々な評論、座談会、イラスト、果ては初音ミクに関する詩まであります。非常にバラエティに富んだ、盛りだくさんの内容で、僕はとても楽しめました。
初音ミクが出現してまだ一年半程しか経っていませんから、こういうリアルタイムで進行している物事に関しては、とにかくいろいろな人に語らせてみるしかないと思います。どれが正しいかはその時点ではわからないのですから。答えは、読んだ人が自分で考えるしかないのだと思います。
初音ミクという存在を考える上で、まずそれを「打ち込んだ歌詞とメロディーで歌わせることのできるシンセサイザー」として考えるか、「バーチャルなアイドル歌手というキャラクター」として考えるかの二つの切り口があります。この二つは実際には不可分なのですが、便宜的に分けて考えることは可能です。
まず「打ち込んだ歌詞とメロディーで歌わせることのできるシンセサイザー」としては、初音ミクにはMEIKO、KAITO等の先輩がいます。ただ、これらとは異なり、初音ミクはVOCALOID2と呼ばれる新しいエンジンを使用した、(日本国内では)最初に発売されたVOCALOIDです。
初代VOCALOIDエンジンとVOCALOID2がどう違うのか、Wikipediaの項目にとても詳しく書かれています。曰く、
音声素片を組み合わせて歌声を合成するシステムであることは変わらないが、合成エンジンが完全に入れ替えられているほか、エディタのインターフェースも一新、歌手ライブラリの音声もそれまでノイズとしてカットしていた息遣いなどを原音のまま生かし、ハスキーな歌声にも対応できるようになっている。ということで、より自然に歌うことのできる性能を持ったVOCALOIDであるということがわかります。
実際、初音ミクの歌声は、単に歌詞とメロディーを打ち込んだだけではぎこちなさが残るものの、パラメータ調整を行うことによって、違和感なく聞くことのできるレベルに持って行くことができるようです。初音ミクはこの種のシンセサイザーとして、最初に「多くの人が使えるしきい値」を越えた存在だったのだと思います。
一方、後者の「キャラクターとしての初音ミク」については、まず第一に画期的だったこととして、初音ミクの製造元であるクリンプトンが、初音ミクの二次創作物について、営利目的でなければ一切の制限を行わない(ただし公序良俗に関する使い方等には制限がある)とはっきり宣言したことがあります。
キャラクターというものは企業にとっては財産であり、その使われ方は厳しく制限するのが普通です。このような宣言を行うということは、そのキャラクターのコントロールを失うことに等しいですから、普通は行いません。
実際、初音ミクはクリンプトンの佐々木氏をして
発売して五日で(良い意味で)「もういいや」という気分になりましたよ(笑い)。ネギ振ってる「はちゅねミク」が出てきた時に、「もうなるようになればいいや」みたいな。と言わしめる全く予想外の進化を遂げました。(この辺りの事情はニコニコ大百科のクリンプトン最大の誤算が詳しいです。)
なぜこんなことが起きたのか、理由ははっきりとは言えないと思うのですが、クリンプトンが、「VOCALOIDはキャラクターとして売るべきだ」と考えたこと、そしてそのキャラクターの使い方をユーザーに任せたこと、そこにたまたま発表の場、コミュニティとしてのニコニコ動画があったことが、この初音ミクの爆発的な進化を生んだのだと思います。
…と、ここまでは最小公倍数的なまとめ方をしてみましたが、ユリイカ増刊号では、SF的な視点から見た初音ミク、アイドルとしての初音ミク、同人文化における初音ミク等々、さらに深い論考があります。全てが初音ミクとニコニコ動画に対して肯定的ではありませんが、VOCALOID作品をさらに楽しむために、良い本だと思いました。
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